日本を出発してから277日目
ただいま30カ国目
タンザニアのダルエスサラームにいます
ロンドンを出発した飛行機は午前7時にタンザニアのダル・エス・サラームに到着した。とりあえず暑い。すぐにフリースを脱いで半そでになる。
アフリカ行きについては、最初はどうしようか悩んでいた。というより、行く予定ではなかった。オセアニアを入れて5大陸で考えていたルートを最後になってアフリカに変更したのだ。
アフリカには旅に出る前、僕のなかにはアフリカは「危ない」というイメージがあった。
黒人だらけ、貧困に苦しんでいる、治安が悪い、感染病が怖い……。
そこであえてアフリカ行きを選んだのは、「多分今回いかなかったら、もう二度とアフリカに行くことはないだろう」と思ったからだ。
まあ、なんとかなるだろう、なるはずだ。そんな考えだけで来てしまったのだから、軽はずみといわれても仕方がないのだけれど、とりあえず今日一日はアフリカに来てよかったと思った。
空港を出るとタクシーの呼び込みが集まってくる。ダルエスサラームはタクシー強盗が多いということを旅仲間から聞いていたので、いやでも警戒心は強くなる。インフォメーションでバス乗り場を聞くと、ここからちょっとはなれているのでタクシーの方がいいという。タクシーは高いからといって断ると、
「じゃ、わかったわ。スタッフバスで市内まで連れて行ってあげる」
といってタダでバスに乗せてくれた。なかなかいいとこあるじゃないか。タンザニアの第一印象はまずまずだ。
さすがに空港スタッフ専用のバスなので危ないこともなく、30分ほどで無事にバスはダルエスサラーム市内に到着した。
バスをおりて宿をさがす。いくつか候補はあったのだけれど、降りた場所からわかりやすい「YWCA HOSTEL」という宿に向かうことにした。
道を歩いていくと、行きかう人はすべて黒人、日本人はおろか観光客もほとんどいない。やはり黒人慣れしていないので、多少の威圧感はあった。
今までで一番黒人の多かった町はブラジルのサルバドールだった。そこでは200万円のスキミング被害に遭い、日本人の旅仲間がカーニバル中にぶん殴られて病院送りにされた。トラブルつづきの場所だった。ニューヨークのハーレムもやはり黒人ばかりだったが、治安はあまりよさそうではなかった。
以来、黒人が多い町は貧富の差がはげしく、治安が悪いという勝手な思い込みをしてしまっている。けれども、ここダルエスサラームは歩いたかんじ、それほど治安が悪いというふうでもなさそうだ。
宿に行くと、警備員のおっちゃんや受付のおばちゃんがとても気さくに話しかけてくれたし、掃除人のお姉ちゃんもはずかしそうにしながら、人懐っこく笑いかけてくる。
「YWCA」
掃除のおねえちゃん(15歳)。
あれっ、こんなかんじなんだ。ダルエスサラームはタンザニアのなかでも一番大きな都市で、治安も一番悪いと聞いていた。よほど気をつけないとと思っていたのに、拍子抜けしてしまった。
確かに安全というわけではないと思う。町のなかには危ない空気をはなっているところもあるし、夜中はかなり物騒になるらしい。他の地域とくらべれば危険なのだろうけれど、南米を旅していたときも感じたように、「思っていたよりは、ぜんぜん大丈夫」なのだ。
宿に荷物を置くと、散歩がてら町を歩いてみることにした。海岸沿いに行くと、フェリーのチケット売りがやたらと声をかけてくる。ダルエスサラームからザンジバル行きのフェリーチケットだ。
ザンジバルには明日か明後日あたりに行こうと思っていたのだけれど、話をきくと25ドルで乗れるという。旅仲間の情報では、相場は30ドルから35ドルときいていたので、ちょうどいいと思い、ここでチケットを買ってしまった。
どうせここにはまた戻ってくるし、早いうちにザンジバルに行ってしまおう。宿にもどると、1泊分の料金8000シリング(800円)を支払い、明日宿を出ることを伝えておいた。
ロンドンからタンザニアにきたものだから、物価が一気にさがって楽チンでいい。コーラの瓶がだいたい40円、食事が一食、200円〜250円くらいですむ。ビールは安いところだと500ミリの瓶が110円くらいだ。
宿の警備員に「ビールが飲みたいんだけど、どっか近くに売っているところはない?」と聞いたら、夜は危ないからといって、近くの食堂まで連れて行ってくれた。お礼はいっさい要求してこない。あまりに申し訳ないので宿にもどってコーラをおごってあげたらすっかり仲良くなってしまった。
タンザニアはスワヒリ語だ。英語も多少ならわかるようだが、道行く人は「ジャンボ!(やあ!)」と声をかけてくれる。なんかいい感じだ。
宿の警備員もそうだったが、タンザニア人は人懐っこい。陽気に声をかけてくるが、こちらを馬鹿にしたような感じはない。声をかけてきても、お金を求めるようなことはしない。本当に親切に接してくれる。子供たちも元気だ。こちらを興味深そうに見つめていて、こちらが手を振ると、嬉しそうに振り返してくれる。
今まで抱いていた黒人のイメージ、アフリカのイメージは今日一日だけで一変してしまった。
「アフリカは危険なところ」
「黒人は怖い」
「人は貧困にあえいでいる」
よく知りもしないのに、実に安直に考えてしまっていた。やっぱりイメージと実際は違う。現地に足を運んでみないとわからないことは多い。
他のアフリカ諸国がどうかはまだわからないし、タンザニアも1日しかいないので何ともいえないが、少しでもそう思えたのだから、今回の世界一周にアフリカをいれてよかったと思った。今回アフリカに来ていなかったら、僕のアフリカに対するイメージはこの先も全く変わらなかっただろうから。
宿はダブルの部屋を一人で使うことになった。ベッドには蚊帳がつるしてある。そう、ここの一番の問題は「マラリア」だ。マラリアにはしっかりした予防薬がない。あるにはあるのだけれど、それが必ずしも効くとはかぎらないし、副作用が強いのであまり使用しないほうがいいとされている。
こちらでは毎年多くの人がマラリアで死んでいるらしい。暑いので半そで短パンになりたいのだが、蚊がこわくて寝るときも長袖&長ズボン&靴下だ。蒸し暑い。それでも今日だけですでに4、5箇所はさされている。
……大丈夫だろうか。
今日の昼飯。2400シリング(240円)。
部屋には蚊帳がかかってました。