日本を出発してから353日目
ただいま40カ国目
マカオにいます
決戦当日。
8時半に起床してシャワーを浴び、荷物のチェックをして宿を出る。
占いなど全く興味のない僕も、今日ばかりは縁起をかついでカツカレーでも食っていくかと思ったのだけれど肝心のカツカレー屋が見つからない。仕方なく日本の心「吉野家の牛丼」を食って腹を満たした。
18香港ドル(270円)。
フェリーに乗りマカオに着いたのは午後1時。入国手続きをすませ、恒例の切手収集をフェリー乗り場内のポストオフィスですませると、バスに乗って市内中心に移動した。
バスを降りたのは「ホテルリスボア」前。「ホテルリスボア」はマカオでもっとも有名なカジノホテルで、あの沢木耕太郎がカジノに挑んだことでも知られている。
「ホテルリスボア」。
「ホテルリスボア」は5つ星ホテルで、普通のホテルとは比べ物にならないほどでかい。沢木が行った頃とは比べようもないくらい立派になっているはずだが、でかくて立派なカジノホテルはラスベガスで何度も見ているのでさほど驚きはしなかった。
それよりも、道を挟んでホテルの真向かいにある「グランドリスボア」というホテルが気になる。たぶん「ホテルリスボア」の2号店だと思うのだが、1号店よりも立派でえらそうな外観だ。
そのままカジノに入ろうかと思ったのだけれど、そのまえにこれも恒例のポストカードを探しにいった。町は近代化されていて、おしゃれな店や最新式の電化製品を並べている店も多い。30分ほど歩いてポストカードを探したのだけれど、肝心の土産物店が見つからない。仕方がないので気分をきりかえ「ホテルリスボア」に戻ることにした。
14時30分、いよいよカジノへ乗り込んだ。
「ホテルリスボア」はさほど広くないフロアがいくつもあって、それぞれルームごとにゲームの種類も違う。1階、2階、3階とまわり、今度は地下におりてみたのだけれど、ホテル内が入り組んでいてどれだけカジノルームがあるかもわからなかった。
道に迷いながらホテル内のブランドショップを歩いていると、やたら綺麗なお姉さんがそのまわりを次々に通り過ぎていった。そのなかにはこちらに気があるのかというような目配せをしてくるお姉さんもいる。内心「ドキ」っとしていると、一人のお姉さんが話しかけてきた。
「800香港ドルよ、どう? 上の階に部屋がとってあるの」
どうやら彼女らは娼婦のようだ。800香港ドルといえば日本円で1万2000円。今回はカジノをやりに来ているので女を買うつもりはまったくなかったのだけれど、あまりにお姉さんが綺麗なので道を間違えてしまいそうだった。
それだけここの女の子はすごい。日本ではこんな綺麗な女性にはなかなかお目にかかれないだろうと思うほどモデル顔負けのスタイルで容姿端麗。そんな子が無数にいる。このホテルを訪れた人は別の楽しみとして女の子を見にいってみてはどうだろうか。きっと驚くはずだ。
ちなみに、世界中をまわっていて美しい女性にはたくさんあった。
アルゼンチン、チリの白人女性もよかったし、ブラジルの浅黒い肌をした女の子は魅力的だった。キューバのノリのいい女性も好きだし、スペイン人女性はみなレベルが高かった。東欧系の真っ白な肌をした女性も綺麗だったし、レバノンの女性はアジアと中東とヨーロッパの血が混じったやさしい顔の持ち主だった。アフリカの黒人女性も綺麗な子はいるし、中東で顔を隠したムスリムの女性たちもヘジャブから見える綺麗な瞳は美女を予感させた。
が、僕が好きなのは東アジアの女性たちだ。人それぞれ好みは違うが、僕は東アジアの女性が世界で一番きれいだと思う。場所でいうと、中国南部、香港、マカオ、ベトナム北部あたりだろうか。
彼女らは東アジア特有の日本人女性にはない妖艶さをもっている。あの切れ長の目は本当に色っぽい。色っぽいんだけどいやらしくない。
閑話休題。ひととおりフロアをまわったところで、いよいよカジノにチャレンジしてみることにした。(いや、チャレンジではない。あくまで勝負だ)
今回の旅でこれまで行ったカジノはアルゼンチン、アメリカ、ブルガリア、ハンガリーの4カ国。やった種目はルーレットとブラックジャックがほとんどだけれど、マカオといえばやっぱり「大小(シック・ボー)」。テーブルの数も多いし、一番盛り上がっている。
「大小」のルールは簡単で、3つのサイコロを振り、その合計の数が「大」(11〜17)か「小」(4〜10)を選んで賭ける。ゾロ目だけは例外で、これはディーラーの総取りになってしまう(ゾロ目のマスにおけば別だけど)。ルーレットでいう「0」と「00」みたいなもんだ。(だから6ゾロの「18」と1ゾロの「3」は配当がない)
それ以外にも、合計数を当てるのではなくて実際の数を当てる賭け方がいくつかあるが、賭け手のほとんどは「大」か「小」のどちらかに賭けていく。
もうひとつ大事なことは「テーブルレート」。各テーブルによってレートは違い、ミニマムとマキシムが決められている。ミニマムとは1回に賭ける最低賭け金で、マキシムは最高賭け金。僕は当然、一番ミニマムの安いテーブルを探していたのだけれど、このホテルの「大小」は一番安いテーブルでもミニマムが50香港ドルかかった。
50香港ドルといえば、750円だ。1ゲームはものの数分(テーブルの客の数にもよるが2〜3分くらい)で終わってしまう。750円あればエジプトなら3泊しておつりがくるし、香港でも今泊まっている宿は80香港ドル(1400円)。他国のカジノと比べてもここのミニマムレートは高いようだ。
最初に書いておかなければいけなかったけれど、今回のカジノ資金は1500香港ドルと決めてきた(財布の中にもフェリー代をのぞけばこれしかない)。これは日本円で22500円。カジノ資金としては物足りないけど、これまでの安旅を考えると大金だ。
それが「大小」でミニマムを賭け続けても30回負けると溶けてしまう。よほど慎重にやらないとあっという間に終わってしまいそうだ。
もちろん勝ちたいのはやまやまだけど、カジノに「ハマる」、カジノを「楽しむ」ためには負けるにしてもできるだけ長くプレーしたい(いかんいかん、そんな弱気では)。
とりあえず、10分くらい観察していた「大小」のテーブルに狙いをさだめ、ディーラーに200香港ドル渡して(マカオのカジノでは現地通貨のマカオパタカを使わずに香港ドルを使う)チップに代えてもらう。50香港ドルチップが4枚返ってきたので、これでとりあえず4回は賭けられるわけだ。
チップをもらってもすぐに賭けることはしない。もうしばらく様子を見よう。
実は今回の「大小」、僕はある賭け方を考えてきた。それは「しばらく続いた目のほうに賭ける」といういたってシンプルな賭け方だ。よくカジノの「大小」やルーレットの「赤黒」で同じ目が続くと、そろそろ違う目がこないとおかしいと考え、逆の目に張る人がいる。
確かに同じ目が2度つづく可能性は2分の1。3度つづく可能性は4分の1。4度つづく可能性は8分の1とだんだん可能性はさがっていく。しかし、カジノで10回連続同じ目がくるなんてことはよくある話なのだ。
逆に10回連続で逆の目が出る(つまり交互に目が出る)ことはあまりない。ならば流れのある目に賭けつづけていったほうがいい。(阿佐田哲也「新麻雀放浪記」参照)
全く同じ粒の赤白の砂を同じ量容器に入れていくら振っても、色がピンクになることはない。どこかで赤がかたまり、どこかで白がかたまっている。ジャンケンを千回すればトータルで勝率は50パーセント近くになると思うが、そのなかには連勝連敗が必ず存在する。(片山まさゆき「ノーマーク爆牌党」参照)
つまり、大小の「流れ」はある。その流れをいかに読めるかが勝負だ。
いや、こう言っているのはたぶん僕の言い訳だろう。こうでもして賭け方を決めておかないと、途中でひよってしまい、ボロボロになりそうなので……。
実際はそのときたまたま同じ目が続くテーブルに運よく居合わせることができるかという勝負だろうけど。
しばらくすると「小」の目が3回連続でつづいた。そろそろ賭けてもいいんじゃないだろうか。「小」の目に50香港ドルチップを1枚置いてみる。
サイコロが振られる。
「1・6・4」の合計11。「大」だ。750円すってしまった。
ビビってまたテーブルのまわりを徘徊し、様子を見る。今度は「大」の目が多くなり、4回連続で「大」がつづいた。今度こそ「大」だ。「大」の目にまた50香港ドルを張る。
「1・3・4」の「小」。
また外してしまった。これで1500円のマイナス。うーん、うまくいかん。
今度は早くもひよって、3度つづいた目の逆に張ってみた。「小・大・大・大」ときた、今度は「小」だろう。
「2・5・6」の「大」。
…………。
次ぎは連続目に賭けて初当たりをものにしたものの、つづく2回を連続して外してチップが無くなってしまった。早くも3000円のマイナス。まだ始まったばかりで4回分負けただけなのに、金額が金額なだけに落ち込んでしまった。
これまでのカジノではパカパカ賭けていたのだけれど、ここはレートが高いので金額にビビってしまっている。3000円という額はこれまでの旅では大きすぎた。何度100円、50円をけちってきたかわからない。やっぱり1年間の貧乏生活が身体に染み付いているようだ。
早くこの金銭感覚を払拭しなければ。
カジノは金額を賭けるというよりも、お金をポイントと考えて勝負するもんだと何かの本で読んだことがある。掛け金にビビっている奴が買ったなんていう話はまず聞かない。
気分を変える意味もあって、地下のフロアに下り、そこでデジタル式の「大小」をやってみることにした。
ここでは画面のボタンを押しながら賭けていくのだけれど、ミニマムが30香港ドル(450円)といくぶん安い。100香港ドル札を紙幣投入口に入れてチャレンジしたのだけれど、日本にいるときにネットでおとしたカジノゲームをたまにやっていたので、ここではあまりお金のことを考えないでゲームができた。
そのお蔭かどうかは知らないけれど、ここのゲームでは調子がよく、30分ほどで200香港ドル(3000円)のプラスになった。さっきの負け分を返済できたわけだ。
よーし、と思い、さっきの大小テーブルに戻って再チャレンジする。今度は緊張感もいくぶん抜けて、勝ったり負けたりしながら勝負を楽しめた。
でもやっぱり勝ちきれない。連続で当てたかと思うと連続で外す。結局マイナス100香港ドル(1500円)となったところでカジノを出ることにした。
つづいてやってきたのは向かいにある「グランドリスボア」。「ホテルリスボア」に入る前から気になっていたカジノホテルだ。ここはとにかくホテルがでかく、1階から3階までだだっぴろいフロアにカジノテーブルが無数に並んでいる。
(残念ながらカジノ内の写真撮影は厳禁となっている。これはどこの国のカジノでも同じなのだけれど、その雰囲気を写真でお伝えできないのが残念だ)
「グランドリスボア」。
1番レートの安いフロアをスタッフに聞き、3階に移動する。まずはやっぱり「大小」。ミニマム50香港ドル(750円)は変わらないけれど、張るペースはだんだん速くなってきた。チップがマイナスになったときは慎重に張り、プラスになったときはイケイケで連続目に張る。これはと思ったときには倍額の100香港ドル(1500円)張るようになった。
1時間ほどやって、最初は調子が良かったのだけれど、後半は失速。結局プラスがなくなったところでテーブルを離れることにした。
次に気分を変えて「ブラックジャック」に挑戦してみた。ここはミニマムが100香港ドル(1500円)。「大小」よりもゲームスピードが速いので、30秒くらいで1ゲームが終わる。気を抜けばあっというまにチップがなくなってしまう。
こちらも最初は調子がよく、ダブルダウン(3枚目を引く前に倍額賭けられる。ただし引けるのは1枚のみ)やスプリット(カードが同じ数字のとき、カードをわけて同額を張り、2勝負できる)もうまくいって400香港ドル(6000円)くらい勝っていた。ところがテーブルの賭け手がへって2人になってからはディーラーの目がやたらよくなり、こっちが19なら20、こっちが20でもブラックジャックといった具合に歯がたたなくなった。
300香港ドル(4500円)負けた時点でもうヤバイと思いテーブルを離れたが、これでトータル400香港ドル(6000円)負けになってしまった。
これはヤバイ。
というわけで、ここでもさっきの縁起をかついで「デジタルルーレット」に挑戦した。「デジタル大小」と同じく、これもレートが安くてかけやすい。テーブルの緊迫感や盛り上がりはないが、そのぶんプレッシャーもなく100香港ドル(1500円)のプラスになった。
さらにさっきの「大小」テーブルに戻って200香港ドル(3000円)勝ち、その後もう一度「デジタルルーレット」をして100香港ドル(1500円)勝ち。ちみちみちみちみマイナスを返してトータルでの借金もなくなった。
なんか調子が良くなってきた。
掛け金はあげられないので大勝はしないけれど、ある程度勝ったらテーブルを離れ、ツキが逃げないようにして勝ち逃げする。
「大小」に戻ってプラス400香港ドル(6000円)、「デジタル大小」でプラス200香港ドル(3000円)、再び「大小」に戻ってプラス200香港ドル(3000円)。この時点でプラスが800香港ドル(12000円)になった。
ちょっと休憩しようとコーラを頼みカジノ観察をしていると、2階のフロアの隅に興味深いショーホールを見つけた。
「京の舞嬢 TOKYO NIGHT」
京都なのか東京なのかよくわからないが、どうやらこれは日本人によるストリップショーのようだ。
うーん、ちょっと入ってみたい。入場料は250香港ドル(3750円)。安くはないがこれくらいの金額はカジノならあっという間だ。
どうしようか迷っていたのだけれど、出演者に「憂木瞳」の文字を発見して入ることに決めてしまった。
懐かしい。彼女には「ギルガメッシュナイト」でお世話になった。今日は勝っているし、せっかくだからいいだろう。
ホール内の観客はごくわずかだった。それでも日本人ストリップ嬢は手を抜かないで真剣な演技をつづけている。異国でこういうのを見るのも一興だ。
お目当ての憂木瞳は若作りしていて綺麗ではあったけれど、あの時代を知っている者としては見なくてもよかった気がする。頑張っている姿に感動はしたけれど……。(ストリップを見ながらなにをえらそうなことを言ってるんだか)
とりあえず日本人の裸を見たことで、これからさらに運気があがるのを期待しよう。
フロアに戻り、デジタルゲームで200香港ドル(3000円)勝ち、そのぶん「大小」で負けたところでこのホテルから出ることにした。
時間は夜中の9時をまわったところ。これからフェリー乗り場に向かえば今日のうちに宿に帰れる。なんだかんだで800香港ドル(12000円)勝っているし、5時間くらいカジノを楽しんだのでこれでいいかとも思ったのだけれど、何だか全然物足りない。
カジノはこれからが盛り上がる時間だからだ。
外はすっかり暗くなっていた。ネオンのきれいな「グランドリスボア」。
外に出てしばらく考えて、せっかくだから橋を渡って南方の島にいってみることにした。ちょうどいいバスがホテルの近くから出ていたのでそれに乗り込む。勝っているのでタクシーにしようかと思ったのだけれど、贅沢はさっきのショーで終わり。これからは1ドルでも多く勝ち金を積むことを考えることにしよう。
ギャンブル前の出銭は縁起が悪いしね。
橋を渡って南の島へ移動。
バスに乗ってはみたものの、島の地図はもっていない。どこにカジノがあるかもわからないのでとりあえずでっかいホテルを見つけてそこで降りてみることにした。
ホテルの名前は「GREEK MYTHOLOGY HOTEL」(別名「新世紀ホテル」)。カジノの規模はリスボアほど大きくはなかったが、それでもフロアには「大小」のテーブルがいくつも並んでいた。
「GREEK MYTHOLOGY HOTEL」。
ロビーのつくりは豪華だった。
ひととおりフロアをまわって大小テーブルを探したのだけれど、これといっていいテーブルがない。いいテーブルとはミニマムが安く、賭け手が多くもなく少なくもなく(6人〜10人くらい)、感じのいいディーラーがいるテーブルだ。
無理して賭けるのは危険なので、腹を満たすために1階の売店にいってみた。レストランやバーもあったのだけれど、持ち金を減らしたくなかったので店の人に頼んでカップラーメンにお湯を入れてもらい食べることにした。銘柄は韓国産の「辛らーめん」。「青島ビール」も飲んでますます調子が出てきた気がする(酔っただけだと思うけど……)。
2階のフロアにあがると、ちょうどいい「大小」のテーブルがあった。客は7、8人。ちょうどいいくらいだ。ミニマムは大小をかけるのが50香港ドル(750円)、合計の数字に賭けるのは20香港ドル(300円)から賭けられる。
テーブルの端の出目表を確認していると、となりのアジア人のおばさんが僕に椅子をまわしてくれ、「ここに座って賭けなさい」と言ってくれた。せっかくなのでその椅子に腰掛けて張ってみることにした。
出目表では「小・大・大・小」の順に出ていて隣のおばさんは「小」の目に100香港ドルチップ(1500円)を1枚置いていた。あまりよくわからないし、ここは僕も「小」に50香港ドルチップ(750円)を1枚置く。おばさんがうれしそうに目配せしてきた。
サイがふられ、出た目は……
「小」。
さいさきのいいスタートだ。50香港ドルチップが2枚になって返ってきた。次は迷うことなく、そのうちの1枚をまた「小」の目に張る。おばさんは少し考えた結果、「大」の目に100香港ドルチップを投げ入れた。出た目は……
「小」。
これで3回連続「小」がきた。おばさんはちょっと悔しそうな顔をして、「あんたやるねえ」というような言葉をかけてくれた。
次も迷うことなく「小」。今度はおばさんも僕の賭け目に乗ってきた。
で、出た目は……
「小」。
これで4連続「小」だ。これはもしかすると、「小」の流れにうまく乗れたのかもしれない。もう次に「大」が出るまで「小」に張りつづけよう。そうと決めるとすぐ「小」に50香港ドルを張った。
本当は金額をあげたいのだけれど、これで外すのも嫌だったので今回は全部50香港ドルで張りつづけることにした。賭け中に悩むのはよくないので……。
(でもこれは駄目な賭け方。1勝3敗でもプラスにもっていく賭け方をする人が本当の博徒だと思う)
で、次の目も「小」。さらにそのあとの2回も「小」が続いて、これで7連続の「小」。僕自身も6連勝で300香港ドル(4500円)儲かった。隣のおばちゃんはあのあとずっと僕に乗って「小」の目に張りつづけている。かなり儲かっているようだ。「小」が出るたびに「また小だよ!」と嬉しそうに話しかけてくる。
周りにいる張り手も僕が「張り」と同時に「小」に賭けて当てつづけているので注目しだした。いつのまにかテーブルには客が増え、見物客も入れると結構な数のとりまきになっていた。
今、このテーブルは貧乏人の張り手を中心に賭けが行われている。
これは痛快だ。まだ1回も外していないので、僕も気分がよくなってきた。周りの張り手もしだいに「小」に張る客が増えてきた。なかにはずっと意地をはって「大」に賭けている張り手もいたが残念ながら外しつづけ、そうとう熱くなってるようだ。
このあと、さらに「小」「小」「小」「小」と4回つづき、11回連続の「小」。僕も10連勝で勝ち金は450香港ドル(6750円)まで増えていた。周りの客が「小」がでるたびに僕の肩を叩き、声をかけてくれる。僕はそれにあまり応えず、「あたりまえ」のような顔をして頷くだけ。
――ああ、気分がいい。
次の目ももちろん「小」に張った。「大」に張り続けていた客もパンクして、もうほとんどの客が「小」の目に張っている。もう、そろそろ潮時かもしれない。
次の目は……
「小」。
これで12回連続「小」だ。
もういいかげん終わりだろう。賭け事は「ついている人に乗るのではなく、ついていない人の逆に張れ」というが、ついていない人(ここでは連続して「大」に張っていた人)がいなくなってしまった。
ここで「大」に賭けて当てたら周りの喝采はすごいだろうと思ったのだけれど、外すとこの先の張りに影響が出そうなので次の回も「小」に張った。出た目は……
「大」。
ついに「大」が出た。結局11連勝のあと1回はずして500香港ドル(7500円)の儲け。おばちゃんも僕にずっと乗ってくれたが、最後は「ついに大がでちゃったね、でもあなたのお陰でこれだけ儲かったよ」と溜まったチップを見せてくれた。
連勝したことにはたいした理由はない。たまたま12回連続で「小」が出るときにその2回目から参加できたというだけだ。何て運がいいんだろう。僕のほうがおばちゃんにお礼を言いたいくらいだ。
これでテーブルを離れて勝ち逃げしようと思ったのだけれど、10香港ドル(150円)のチップが5枚あったので、ディーラーにチップをあげるつもりで最後に合計額「4」と「17」の目に20香港ドル(300円)ずつ張ってみた(1枚は記念に持って帰ろうと思ったので)。
合計数の「4」と「17」はゾロ目を除くと一番出にくい目で、倍率は「50倍」に設定してある。実際の確立は72分の1。当たるわけがない。
サイコロが振られる。出た目は……
「5・6・6」。
うおっ! 「17」が出てしまった!
これには周りの客もディーラーも一様に驚いていたが、一番驚いたのはそこに張った僕自身だった。まさか本当に当たってしまうとは……。思わず目を疑ってしまったほどだ。
20香港ドル(300円)が1000香港ドル(1万5000円)になって返ってきた。ディーラーに50香港ドル(750円)をチップで渡し、隣のおばちゃんに肩を叩かれながら「それじゃ、僕はこれで」と言ってテーブルを離れた。今度は本当に勝ち逃げだ。
テーブルを離れてからもなかなか興奮がおさまらなかった。何より楽しかったのは、他の客がみんな僕に注目してくれていたことだ。この快感を一度味わってみたかった。貧乏人の張り手には無理だと思っていたのだけれど……。
カップラーメンがきいたのだろうか? 吉野家の牛丼がきいたのだろうか? それとも憂木瞳の裸がきいたのだろうか?
もっと掛け金を上げていればという後悔はここではしないでおこう。そうしていたら「ホテルリスボア」の段階で僕のカジノは終わっていたかもしれないので……。
とりあえず「デジタルルーレット」に移動し、ゲームをやりながらさっきの余韻に浸る。ポケットのなかのチップをまさぐり、勝ち分を数えるという至福の時間を堪能した。
これで2200香港ドル(33000円)浮いた。カジノで遊ぶ人にとってははした金だが、旅人にとっては大きな額だ。
そのあとの「デジタルルーレット」では100香港ドル(1500円)負け。まだ運が残っているかもと思い、さっきの「大小」のテーブルに戻ってみたけれど、今回は勝ったり負けたりの繰り返しだった。
テーブルに戻ったときには、隣にいたおばちゃんがさっき稼いだ金をはきだして辛そうにしていた。僕が前回13回賭けて1回しか外さなかったので、最初のうちは「救世主現る」といった感じで嬉しそうに僕に乗っていたが、僕が勝ち負けを繰り返していると自分で選んだ目に賭けだして、しばらくするとパンクしていなくなってしまった。
僕も100香港ドル(1500円)負けた時点でテーブルを離れることにした。もう運は残っていないらしい。このホテルはこのへんでいいだろう。
とりあえず外に出てカジノを探す。近くにあった「クラウンホテル」というカジノに行ってみたのだけれど、いいテーブルがなかったのでしばらくデジタルゲームのマシンに座ってポストカードを書いていた。
ポストカードといっても、本当のポストカードではない。これらのカジノにはだいたいどこも「出目表」というのがあってテーブルに備え付けてある。これがなかなかオシャレでかっこいい。記念に各ホテルから1枚ずついただいていたのだが、そのうちの1枚をポストカードがわりにして日本の友達に送ろうと思ったのだ。
この旅最後のポストカード。もらった人がもしこのブログを見ていたら、こんな情況で書いていたんだと想像してほしい。
結局、1時間くらい待ってもいいテーブルができなかったので一度も賭けをやらずにホテルを出た。今度は負けたくないというよりも、せっかく勝った金を減らしたくなくて慎重になっているようだ。
「クラウンホテル」の周囲を歩いてみたけれど、他にめぼしいホテルがない。時間は深夜2時をまわっていた。
――もうひと勝負するか。
バスもあまり走っていなかったので今度はタクシーを飛ばして本島に戻る。次にむかったのは「MGM GRAND」だ。
「MGM GRAND」はラスベガスにもある有名なカジノホテルで、たしかラスベガスのほうは7、8年くらい前まで世界で一番大きいホテルだったはずだ。僕もラスベガスのほうは何度か行ったことがあるが、ライオンがホテルのシンボルマークで、それを見ただけで懐かしくなってしまった。
現在、マカオのホテルはアメリカからの外資が数多く参入してきている。そのせいもあてマカオの収益は少し前にラスベガスを越えたらしい。これにはさすがに耳を疑った。ラスベガスも年々ホテルが増え、かなりの収益をあげているはずなのに……。それだけ今のマカオがすごいということだろう。
「MGM GRAND」。
「MGM GRAND」はフロアも広く、テーブルも数え切れないほどあって、テーブルレートもさまざまだった。
もちろんレートはミニマム50香港ドル(750円)の最安レート。やりやすいテーブルを狙いながらいろいろなテーブルで「大小」を繰り返し、勝ったり負けたりしながらプラス300香港ドル(4500円)になったところでホテルを出た。
時間は5時前。いい時間だったけれど、なんとなく名残惜しくてそのあと「リスボアホテル」の近くにある「永利酒店(WYNN MACAU)」に行ってみた。そこでも「大小」で200香港ドル(3000円)ほど勝ち、これで本当におしまい。マカオでのカジノを切り上げることにした。
「永利酒店」。
時間は朝6時過ぎ。結局6つのカジノをまわり、16時間近くカジノにいたことになる。フェリー乗り場までの道は朝の冷たい空気が流れていて心地よかった。
今回の戦績は2500香港ドル(3750円)のプラス。旅の最後に本当にいい思い出ができた。
マカオに来てよかった。沢木耕太郎のようにはいかなかったかもしれないけれど、今回のカジノは僕なりにそうとう楽しめた。(文章では沢木に惨敗だけど)
でも今日は本当についていたなあ。こんなについてていいんだろうか。最後の日本までの飛行機が落ちなければいいけれど……。
今回のカジノの成績表。